なぜひとつの完璧が
7/10/2022
夏
鈴虫の隠れる夜の声
久遠の峠を超えやって来る
風の重たい響きを明らかにするために
僕はそのずっと上に明るい星を投げかけた
すると雲が見えた
ずっしりと構えた
泡沫の帆船
陰りゆく者たち
そして川を挟んで松の木が一本
時の流れに抗うただの一本が
僕らの目の先に立っていて
「これが俺たちが見据えて抱え
そして抱きかかえられている景色なんだ」
って、僕の親友がそう言って
「ここには距離がある
向こう側とこちら側
でもあの星の輝きが
そんなものを無にしてくれる
だから俺たちは繋がれていて
広がっている」
だなんて
ああでも少し弁解させてくれ
僕だってその言葉が嘘じゃないってことぐらいわかってるんだ
でもあの時以来僕はもうそんな光景と出くわしちゃいない
風の声なんてものとも疎遠になった
なぜだろう
君のことを
覚えてるのだって不思議なくらいで
きっと住んでる場所が明るすぎるからなんだろうか
かつて暗闇を恐れて夢を見ていた僕らにとって
言わばあれは奇跡みたいなものだった
すべてが可笑しいほどに台風さながらの息を合わせて
正しい場所にあった
僕らの振りかざし得るありとあらゆる観念と無知に耐えて
どこで区切っても
区切らなくても
「ありゃバッハのフーガ以上だ」
って、時が違えば君は言っていたかもしれない
わからない
あれがあり得たのはどうしてだったのか
なぜひとつの完璧が
夜露のように儚い僕らの眼前に立ち現れざるを得なかったのか
すべてが可笑しいほどに神聖だった
ありもしないのに永遠だった
実際はあれは奇跡だったのか
君は奇跡の人だったのか