閑散とした雪空の下を往く電車の中で
その向こう側
誰のものでもない思い出となって移ろいゆく景色に
私が空想を交えて遊んでいたときだったか
大きなおまえは小さな青いリュックをしょって
青い帽子を被ったまま乗車してきた
祖母と思わしき人物に半ば強引に手を引かれて
他方の手には二三の石を大事そうに持って
乗車口より最も近い席
ちょうど私の正面の席に腰を下ろした
己の孫を慈しみ守る祖母の気配りが
その傍らに座るおまえの耳元で何やら囁くが
おまえの眼はずっと私を離さないでいた
この真っ黒に穿たれた眼球の奥に
おまえは何を見て取ったのか
私もまたおまえの眼を見据えるが
どうにも目を逸らさずにはいられない
おまえの存在を反射するこの瞳の表の働きが
不憫や同情なぞを伝えるものとならないよう
最善の注意を払わなければならなかったのだ
(おまえを哀れむ奴を許してはならない
おまえを妬む奴なども許してはならない
なあ言ってはくれないか心から
どうか俺のことを屑野郎と
なぜというにそれがどうしようもなく本当のことなのだから
俺は密かにおまえにそう思ってもらいたくして仕方がないのだ)
祖母の手と口が石を要求する
それを許すまいとしておまえは祖母を睨むも
頑なに閉ざされた小さな握りこぶしは
さもありなんお菓子の誘惑の前に
あっさりと白旗をあげてしまった
祖母は石を預かって
一方おまえは黙々とお菓子を食べる食べる
私のことなぞもそっち退けで
祖母や石にかまうこともなく
一つまた一つと
手を休めることなく頬張り続ける
少しは残しておきなさいと
笑みを湛えながら祖母は優しく伝えるも
おまえは彼女に貸す耳なぞ
端から持ち合わせていなかったのだろうか
全部は食べたもうなと
言うことを聞かぬ孫の腕を
遂に彼女は掴み止めるも
そのとき祖母を見遣ったおまえの目は
なんと真っ直ぐな反感を示していたことか
祖母は諭すように言い聞かすも
おまえの狭量な意志の揺らぐことは期待できぬ
祖母が目を離した隙を突いて
残り僅かなお菓子を食べてしまおうとするも
再三祖母の腕が止めに入り
その度におまえの顔にも不満が浮かぶ
全部食べてしまえ、一つも残すんじゃない
と私は心中密かに願うも
おまえにとっても悲しいことに
あと数個の消化は祖母に阻まれ
お菓子は青いリュックの中に戻された
おまえは祖母のハンカチで口元を拭われ
そして先ほどまで大事そうに手にしていた石を渡された
こうしておまえは石のことを思い出し
お菓子のことは忘れてしまったようだった
やがて電車が止まりおまえは降りた
再度私に目をくれることもなく
無言のまま祖母と連れ立って
うら寂しい駅のホームの向こうへと消えていった
私は再び電車に揺られ
流れる景色は私を元の空想へといざなったが
私の頭からはずっとおまえが消えないで
おまえの石を愛でる目と青いリュックの後ろ姿とが
消えないで
『霞んでいってしまえ』と
私は願った
『さっさと、この鈍色の視界の先に』
誰かに話してもらいたかった
どう気持ちを整理したらよいのか
あるいは誰にも
己にすら
『やがて空想もおまえも私も一緒くたになって
さながら走馬灯のように流れるこの景色の奥へと
誰の気にも止められぬまま消えていってしまばいい』
だがそうなるはずもなく
景色は流れ続け
私は座ったままでいた
(おまえを哀れむ奴を許してはならない
おまえを傍から称える奴なども許してはならない
なあ言ってくれよ心から
どうか俺のことを屑野郎と
それがどうしようもなく本当のことなんだ
俺はおまえにそう思ってもらいたくして仕方がないんだ)